一級建築士事務所 エイチ・アーキテクツ

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11月

神宮外苑の軸線状プロムナード

週末、銀杏祭りで賑わう神宮外苑へ行きました。絵画館の展示を拝見した際に、戦前の絵画館周辺の写真を見て、銀杏並木の存在理由が初めてわかりました。絵画館前の軟式球場は、戦前は銀杏並木から絵画館まで一直線に通じるプロムナードを含む西洋式庭園だったのです。

戦後、絵画館は進駐米軍に接収され、西洋式庭園は球技場に変わったそうです。背景には天皇の威信を弱める米軍の意図があったのかもしれません。絵画館と銀杏並木の今より魅力的な風景が無くなったのは非常に残念です。現在の外苑には軟式球場を含め3つの球場があります。昔は野球が圧倒的な人気で競技人口も多かったかもしれませんが、現在はスポーツも多様化しています。軟式球場を西洋式庭園に戻して、軸線状プロムナードを復活することはできないでしょうか?

東京オリンピックの準備で、隣の国立競技場建替えについて様々な議論があります。競技場建物の検討に加え、本来の神宮外苑の在り方が見直され、整備されることを期待しております。

東京駅とシンデレラ城

丸の内東京駅周辺を歩くと、今でも東京駅舎を写真に収めている人が多く見られます。辰野金吾先生設計で1914年に完成した「中央停車場」を再現した外観は圧倒的な迫力です。19~20世紀のイギリス建築家ノーマン・ショウの影響を受けたと言われる赤と白の煉瓦の組合せは素朴さも感じられ日本人に受け入れられ易いのでしょう。同様の外観と平面の広がりをもつ建物は辺りに無く、そこにかつてそのように建っていたという歴史的事実が無ければ異様な存在とも言えます。

ライトアップされた東京駅を眺めていると、失礼ながらディズニーランドのシンデレラ城を思い出しました。シンデレラ城は15~16世紀のフランス古城をモデルにつくられたそうです。シンデレラ城の演出された歴史性と大きなスケールは、周辺の近代的なアトラクションとは対照的です。東京ディズニーランド30年の歴史の中で、10~20年で姿を消したアトラクションもありますが、シンデレラ城はディスニーランドの中心で「ランドマーク」として存在し続けることでしょう。

復元された東京駅では第二次大戦で焼失したドーム屋根が復活しました。南北の大きなドームの間には小さな尖塔状のドームも多数あります。一つの建物にドームが多いのも辰野建築の特徴でした。シンデレラ城には29本の塔があります。他のディズニープリンセスのお城よりも塔の数が多くシンボリックなのだそうです。やはり、両者は似ているか??

カーデザイン VS 建築デザイン

今月下旬から東京とロサンジェルスでモーターショーがあります。車の流線形デザインを見ると建築の形は何と保守的なのだろうかとよく思います。車は風を切って走るので流線形であることは合理的です。地面に根を張って微動だにしない建築が流線形であると「未来的なデザイン」とか言われて、今は良く見えても近い将来陳腐化する可能性が高いのです。

建築は動かず街とつながっています。街の中に建築があり、建築が街を構成します。建築には「場所性」があり、街と呼応する形になることが多いのです。一方、車は移動して、いつどこにあるかわかりません。車の形は置かれている周囲とは無関係で、一般に自己完結した左右対称形です。

車の寿命は10年10万キロと一般に言われています。海外でも15年30万キロが限界だそうです。一方、日本の建築は平均寿命が40年、さらに欧米並みの100年まで伸ばそうとしています。建築に使用する材料や風雪に耐えるディテールは当然車のそれとは異なります。

また、車は大量生産品ですが、建築は一品生産です。複雑な形は当然コストアップとなり、大量生産によって吸収できるカーデザインの初期投資も、建築一棟ではまかないきれません。市場に流通している大量生産品である建築材料も、複雑な形態をつくるのには適していません。

建築には豊かな移動できるインテリアがあります。庇や軒下といった外と内の中間的な空間もあって、それが建築の曖昧な輪郭線として表現されます。車にもインテリアはありますが、外と内は完全に分かれて、外形は彫刻のようにはっきりと表現されています。

カーデザインと建築デザインは異質のものです。建築を車のようにはデザインするのは難しい。でも、そこが面白いのかもしれません。

置き去りの郊外商業施設周辺

週末青山から表参道まで歩いて買い物をしました。毎年恒例のデザインイベントのせいか人通りが多く、歩いていて気持ちの良い秋の一日でした。次の日、郊外の大型店へ行くとこちらも大変な賑わい。ところが大きな違いは、モールや大型店内のヴァーチャル(仮想)都市的な施設内にほとんどの人が居て、周辺のリアル(現実)な通りを歩いている人は非常に少ないということです。

青山通り、表参道というリアルな通りは、人がたくさん歩くことによって注目され、通りそのものがますます魅力を増していくことでしょう。一方、郊外商業施設周辺のリアルな通りは閑散として、このまま置き去りにされていくのでしょうか?或いは、ヴァーチャルな都市の広がりで周辺のリアルな都市も注目される時が来るのでしょうか?対照的な二つの街を歩いて考えさせられました。

100年住宅 20年設備

新聞で大手設備メーカーの営業利益が大幅に伸びているという記事が掲載されていました。消費税変更前の駆け込み需要だけでなく、長期的にリフォーム需要が大きくなっているようです。

元来住宅と設備の寿命は異なります。現在、日本の住宅寿命は40年前後で、水廻り設備は20年程度。家を建て直す前に1回設備リフォームをする計算で、実際の感覚にも合っているようです。ちなみにアメリカの住宅寿命は100年程度。日本でもアメリカを見習って「100年住宅」が推奨されていますが、水廻りについては交換可能を前提としています。

水廻り設備は機械であり、その寿命は当然建築より短いです。つい5年前の電気製品が古くて使えないのと同じです。水廻りだけでなく、太陽光発電や床暖房も機械設備です。新製品開発のサイクルも短くなっていますので、経年による性能劣化とともに陳腐化するスピードはますます速まっていくことでしょう。

住宅に限らず建築設計では、建築と機械設備を切り離して設計することが肝要だと思います。