透ける階段

 階段の大きさは建築基準法で最低寸法が決められているので、施主のご希望で「もっと小さくしたい」・「ハシゴで良い」というわけにはいきません。特に狭小敷地では、3階建て以上の計画が多く、各階で階段の占める面積の割合は意外に大きいものです。

 部屋を広く見せるためには、階段と隣りの部屋を視覚的・空間的に連続させて、「透ける階段」とすることが効果的です。例えば、当事務所設計の「西宮の家(三角狭小敷地の家)」では、鉄骨階段を大型ガラスで仕切って、隣りのダイニングと視覚的に連続させています。また、「佃の家」ではRC(鉄筋コンクリート)階段を木製の縦格子(たてごうし)で仕切って、視覚的・空間的にリビングダイニングと連続させています。

 空調計画の観点からは、「西宮の家(三角狭小敷地の家)」の場合、階段とダイニングをガラスと扉で仕切っているので、ダイニングの冷暖気が階段へ逃げることはありません。一方、「佃の家」ではリビングダイニングの冷暖気が階段へ流れるので、個室以外の全館空調のようになりますが、非常にコンパクトな家であることを前提に、リビングダイニングのエアコン能力に余裕を持たせて、階段室上部に暖気を逃がす通気窓を設けることでの対応としています。

▶西宮の家(三角狭小敷地の家)

▶佃の家

階段は木製?鉄製?オープン?

「西宮の家」の設計 ⑧

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第8回です。

 平屋以外の建物には必ず階段があります。限られた平面で階段の占める面積は少なくなく、また毎日利用するので大切なものですが、階段に予算をかけて重視されるお施主様とそうでないお施主様がいらっしゃいます。お施主様のご要望をよく伺って、階段を如何に適切な位置とあり方で計画するかは、設計者の能力次第です。

 木造住宅でよくある階段は、壁に囲まれて部屋からは見えない木製の箱階段(はこかいだん)と呼ばれるものですが、インテリアの一部として露出して見える木製または鉄製(鉄骨)のオープン階段も最近では多く見られます。コストは一般に木製よりも鉄製の方が高く、オープン階段の場合は各階の空間が仕切られること無くつながるので、ルームエアコンの空調効率が悪くなります。通常のルームエアコンではなく、常に家全体に冷暖房をかける全館空調という考え方もありますが、その場合は空調コストが高くなります。オープンな鉄骨階段の見え方を優先するのか、階段にはコストをかけずに木製の箱階段とするのか、プランと予算のバランスを考えて決定します。

 「西宮の家」は3階建てなので、1階~2階と2階~3階の二つの階段があります。両方とも木製階段あるいは鉄骨階段とするのが一般的ですが、コストと意匠を考慮して、1階から2階は木製階段、2階から3階は鉄骨階段としました。1階から3階まで同じ階段が続くのは退屈なので、2種類の階段としたという理由もあります。冒頭の写真は2階~3階の鉄骨階段です。鉄骨階段はリビング・ダイニングから見えますが、透明の大型ガラスで仕切っているので、空調の暖気・寒気が逃げることはありません。「オープン階段のような鉄骨の箱階段」です。階段はすべて詳細図を描いたオーダーメードとなっています。

→ 西宮の家