一級建築士事務所 エイチ・アーキテクツ

一級建築士事務所 エイチ・アーキテクツ

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〒160-0006 東京都新宿区舟町7-9-802

2022年

建設資材物価指数

 いろいろあった2022年でしたが、ここ数年来の材料費の高騰に加えて、サッシや外装・屋根材といった多くの加工製品も来年からの値上げが見込まれています。2024年10月には消費税を15%とする政府案も検討されているということで、建設費はますます上昇傾向にありますが、木材は昨年ウッドショックでの急騰とその後の高止まりからようやく下落傾向にあります。

 冒頭の表は毎月公表の建築資材物価指数の推移ですが、建物の軸組(骨組み)に使用する「杉正角(しょうかく=正方形断面の角材)」の価格は降下しています。「コンクリート型枠用合板」は主にロシアから輸入されていたので、戦争の影響で他の資材同様にしばらく下がらないと思いますが、木造の住宅や施設は建設をご検討されても良い時期かもしれません。

 来年はコロナ禍や戦争も終結して、平穏な年になることを祈念致します。良いお年をお迎え下さい!

採光シミュレーション

「西宮の家」の設計 ⑫

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第12回です。

 住宅の居室は一定以上の採光をすることが建築基準法で定められていますが、生活をして快適であるためには法令規定以上の採光が一般に望ましいです。また、法令ではその部屋にある窓の合計面積しか評価されませんが、実際には個々の窓の配置も重要で、隣の部屋から光が入ることもあります。良い採光であるかは平面図や立面図だけで判断するのは難しく、BIM(3次元CAD)で敷地の経度・緯度を入力した3次元モデルに想定される太陽光を入れて検証するのが有効で確実な方法だと思います。

 冒頭写真の右側に並んでいる画像は、「西宮の家」の2階LDKに三角形の中庭を通して太陽の光が入るか設計段階で検証した夏至の日の10時から12時にかけての様子です。奥のキッチンは少し暗いですが、ダイニングテーブル廻りには光が差し込んで、12時には隣の階段室上部のトップライトから光が入ることが確認できました。

 道路をはさんで向かい側の集合住宅からの視線をさえぎるために三角形の中庭の外側にも壁を設置していますが、この検証の結果、中庭の上部や壁中央の開口から太陽高度の高い夏でも中庭とダイニングには陽が差して明るいことがわかりました。また、階段上のトップライトはコストダウンで削除が検討されていましたが、ダイニングにも有効に光が入ることがわかったため残すことになりました。

 周囲の建物による反射や天候などの影響もありますので、採光の状況を正確に再現することは難しいですが、BIMを使用しておおよその採光をシミュレーションすることは可能です。

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ビルトイン本棚

「西宮の家」の設計 ⑪

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第11回です。

 最近は電子書籍の利用が増えて印刷した本は少なくなってきていますが、蔵書の多い方や電子書籍の利用が不向きな場合は、やはり本棚が必要かと思います。一般には家具として本棚を購入されることが多いですが、注文住宅では室内の壁と一体化した「ビルトイン(Built-in 造り付け)本棚」を計画することも珍しくありません。「ビルトイン本棚」のメリット・デメリットとしては以下が挙げられます。

 メリット
 1)インテリアと一体で計画できる
 2)空間を無駄なく使える
 3)地震で本棚が転倒しない

 デメリット
 1)コストがかかる
 2)位置の変更や撤去が難しい

 「西宮の家」では、蔵書が多く家でお仕事をされることもあるお施主様ご夫妻にリビング(冒頭写真上)と二つの書斎/仕事部屋(同写真下左右)の「ビルトイン本棚」を提案しました。リビングは窓下の壁をすべて「ビルトイン本棚」として、はす向かいの公園の木々を見ながら寝椅子に座って図書室のような雰囲気で本を読めるようになっています。書斎/仕事部屋は機能性を重視して、床から天井までの「ビルトイン本棚」を机と一体で製作しました。本棚の圧迫感が無いように白色で統一して、棚の高さは部分的に自由に設定できるようになっています。

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窓のメリット・デメリット

「西宮の家」の設計 ⑩

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第10回です。

 建築基準法では住宅の居室は採光・換気のために一定基準以上の窓が必要です。窓をどのくらいの大きさでどのように配置するかは重要な設計課題ですが、一般に窓のメリット・デメリットは以下となります。

 窓のメリット
 1)光を入れる
 2)空気を入れる
 3)外を見る/外へ出入りする
 4)インテリアや外観のアクセントとなる

 窓のデメリット
 1)熱の出入りが大きい
 2)雨風が侵入しやすい
 3)室内がのぞかれる
 4)ガラスが割れて壊れやすい

 木製の窓が多かった時代は、窓のデメリットの部分はあきらめて、メリットの部分をいかに生かすかが設計者の腕の見せ所でした。2000年頃までは、アルミサッシではデメリットの解消も十分ではなく見栄えも悪かったので、建築家が設計する住宅の窓は、窓を開けた時に屋外の戸袋に建具をすべて引き込んで、室内からは壁に大きな穴があいたように見える木製窓が典型例であったように思います。

 一般的な木製窓は経年でひずんで隙間風が入り、結露して動きも悪くなります。また、近年は地球温暖化や健康への関心から、室内の熱の70%以上が出入りする窓の性能が重視される傾向にあります。最近のアルミサッシは高性能でデザインも洗練されてきているので、特に高気密高断熱の仕様やZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)とする場合は上級アルミサッシが必須となっています。

 「西宮の家」は高気密高断熱でもZEHでもありませんでしたが、冒頭写真のリビングからはす向かいの公園の木々を望む横長窓は、既製品のアルミサッシを組み合わせて設計しました。木造住宅ですが、建物角に鉄骨柱を入れて、直角に折れ曲がる窓がなるべく連続して見えるようにしています。また、窓の上枠木口の厚みに収まるような小型ブラインドを設置して、ブラインドを下ろせば障子を通したような柔らかな光が入る気持ちの良い空間となっています。

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ZEH目標

キッチンはオーダーメード?

「西宮の家」の設計 ⑨

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第9回です。

 住宅の設計でお施主様から「キッチンメーカーはどこがいいですか?」という質問をよく受けます。ハウスメーカーで設計をしていた時は、自社と提携開発しているメーカーをお勧めすることもありましたが、設計事務所では公平なアドバイスを差し上げられるので、お施主様のご要望を伺って一緒に検討させて頂きます。

 システムキッチンが日本で生まれたのは、1970年代の高度成長期後半、ちょうどマンションがたくさん建ち始めた頃です。今ではたくさんの国内メーカーがありますが、ステンレス加工が得意なメーカーや家具製作が上手なメーカー、自社開発の素材を使用するメーカー、便器や家電の大手で総合的によくまとまっているメーカーなど各メーカーそれぞれ特徴があります。

 1930年代からの歴史をもつ欧米のメーカーも日本に多く進出していて、主流はドイツメーカーです。つい最近まですべて輸入代理店の取り扱いでしたが、日本法人を設立しているメーカーも見受けられます。ドイツメーカーのシステムキッチンはデザインも価格も上級で、ちょうど日本車とドイツ車のような関係です。高額の案件やキッチンにご予算をかけられる場合は主要な選択肢となります。

 メーカーの選択方法としては、ショールームへ行って販売員の説明を伺って、実際に展示品を使ってみることをお勧めします。設計者としては、お施主様のご希望やご予算を伺って、建物との調和を見ながら、メーカーの絞り込みや決定のお手伝いをさせて頂きます。

 また、上記メーカーを採用しないで、設計事務所で詳細図を描いてキッチンを家具工事としてオーダーメード(特注製作)する方法もあります。冒頭写真の「西宮の家」のキッチンは、三角形の敷地端部にある台形平面の台所であったため、家具工事として特注製作しました。水栓金具やシンク、オーブン、レンジ、ワークトップの材質や吊戸棚の塗装色などお施主様のご要望に応じて一つ一つの部材や色を選んで、BIM(3D CAD)で組みあがった姿を様々な角度から検証しながら決定しました。

 オーダーメードのキッチンとすると、設計者の手間はかかりますが、総費用としてはメーカーの高価格帯キッチンよりは安く仕上がります。さらに「調理設備以外はただの箱で良い」という割り切りがあれば、低価格のキッチンとすることも可能です。お施主様のご要望や建物の条件に合わせて自由に設計できるのが家具工事でのオーダーメードキッチンのメリットですが、メーカーキッチンのようなシンクや収納の細やかな提案やメンテナンス保証が無いのがデメリットとなります。キッチンをオーダーメードとされるかはケースバイケースではないでしょうか?

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階段は木製?鉄製?オープン?

「西宮の家」の設計 ⑧

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第8回です。

 平屋以外の建物には必ず階段があります。限られた平面で階段の占める面積は少なくなく、また毎日利用するので大切なものですが、階段に予算をかけて重視されるお施主様とそうでないお施主様がいらっしゃいます。お施主様のご要望をよく伺って、階段を如何に適切な位置とあり方で計画するかは、設計者の能力次第です。

 木造住宅でよくある階段は、壁に囲まれて部屋からは見えない木製の箱階段(はこかいだん)と呼ばれるものですが、インテリアの一部として露出して見える木製または鉄製(鉄骨)のオープン階段も最近では多く見られます。コストは一般に木製よりも鉄製の方が高く、オープン階段の場合は各階の空間が仕切られること無くつながるので、ルームエアコンの空調効率が悪くなります。通常のルームエアコンではなく、常に家全体に冷暖房をかける全館空調という考え方もありますが、その場合は空調コストが高くなります。オープンな鉄骨階段の見え方を優先するのか、階段にはコストをかけずに木製の箱階段とするのか、プランと予算のバランスを考えて決定します。

 「西宮の家」は3階建てなので、1階~2階と2階~3階の二つの階段があります。両方とも木製階段あるいは鉄骨階段とするのが一般的ですが、コストと意匠を考慮して、1階から2階は木製階段、2階から3階は鉄骨階段としました。1階から3階まで同じ階段が続くのは退屈なので、2種類の階段としたという理由もあります。冒頭の写真は2階~3階の鉄骨階段です。鉄骨階段はリビング・ダイニングから見えますが、透明の大型ガラスで仕切っているので、空調の暖気・寒気が逃げることはありません。「オープン階段のような鉄骨の箱階段」です。階段はすべて詳細図を描いたオーダーメードとなっています。

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オーダーメードバスとする6つの理由

「西宮の家」の設計

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第7回です。

 浴室について明確なイメージをお持ちでない場合も、ハウスメーカーや工務店ではなく設計事務所にお声掛け頂くお施主様は、既製品のユニットバスではないオーダーメードバスを望まれます。理由としては以下があるようです。

 1.唯一無二のものが欲しい
 2.FRP(繊維強化プラスチック)が好きでは無い
 3.使いたい仕上材料(特定のタイル・石等)がある
 4.洗面所との間仕切りを大きなガラスにしたい
 5.置き型の浴槽を使いたい
 6.自由な浴室の形・大きさ・窓でつくりたい

 ユニットバスは完結した商品を置くだけなので、必要な空間を確保しておけば特別な設計図面は不要です。また、防水などのメーカー保証もありますので、意匠にこだわりが無ければ手軽で堅実な選択ですが、設計の自由度は少ないので、上記理由には対応できません。設計事務所は、浴室に限らず詳細図を描くオーダーメードを基本としていますので、出来る限りのご要望の実現を目指します。

 「西宮の家」の浴室は、お施主様の特別のご要望はありませんでしたが、三角形の敷地形状に沿った建物先端の台形平面に、なるべくコストを抑えて計画しました。具体的には、ユニットバスとオーダーメードバスの中間のつくり方で、浴槽から下は既製品のFRPハーフユニットバスを使用してコストを節約し、浴槽から上は二種類のタイルで壁を貼り分けて、台形平面に合わせた飾り棚があるオーダーメードの設計となっています(冒頭写真及びCG参照)。

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サニタリーの設計

「西宮の家」の設計 ⑥

住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第6回です。

トイレや洗面所などのサニタリー(Sanitary:衛生設備)を設計する際に、どのくらいのコストをかけるかはお施主様次第で、予算が厳しい場合は極力お金をかけないということが多いです。

冒頭写真は「西宮の家」の1階トイレと洗面所です。写真を見られて「高級」と言って頂くことが多いですが、双方とも三角敷地の不整形なひずみを受けて余った台形の小さな平面に簡単な造作や塗装を施しただけですので、大きなコストはかかっていません。

鏡や塗装は比較的安価な仕上げ方法で、間接照明とうまく組み合わせると高級感を演出することができます。なるべくコストをかけないで、でも少し手間をかけて、サニタリーであっても特別感や高級感が感じられればと思っております。

多目的な予備室

「西宮の家」の設計 ⑤

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第5回です。

 「西宮の家」の1階には多目的な予備室があります。お施主様の親御さんや友達が宿泊するために計画されました。限られた建物の大きさやご予算の中で、予備室を計画することはまれかもしれませんが、子ども部屋もお子様が独立すれば空き部屋となるので、主寝室以外の寝室はすべて「多目的な予備室」と考えられるのではないしょうか?

 「西宮の家」の予備室は三角形の敷地形状を反映した台形平面で、先端の細まった部分に木板を2枚造り付けて本棚と机にしています。独立したキャスター付きの引出しがあれば学習机にもなります。そばにミニキッチンもあるので簡単な自炊も出来ます。また、予備室の隣りにはトイレもあって、3階の主寝室脇のトイレと公私の使い分けが可能です。結果として、予備室の多目的な使用法としては以下が想定されます。

1)親戚や友人の宿泊室
2)親御さんの部屋(水廻りの分かれた二世帯住宅)
3)子ども部屋
4)趣味の部屋
5)ホームオフィス
6)病気にかかった時の隔離室
7)夫婦別室となった時の部屋
8)賃貸部屋

 将来の不確実性や転売の柔軟性を考えると、寝室の設備や配置を新築時に検討するにあたって、なるべく多目的な対応が出来る計画が望ましいと思います。

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