一級建築士事務所 エイチ・アーキテクツ

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キッチンはオーダーメード?

「西宮の家」の設計 ⑨

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第9回です。

 住宅の設計でお施主様から「キッチンメーカーはどこがいいですか?」という質問をよく受けます。ハウスメーカーで設計をしていた時は、自社と提携開発しているメーカーをお勧めすることもありましたが、設計事務所では公平なアドバイスを差し上げられるので、お施主様のご要望を伺って一緒に検討させて頂きます。

 システムキッチンが日本で生まれたのは、1970年代の高度成長期後半、ちょうどマンションがたくさん建ち始めた頃です。今ではたくさんの国内メーカーがありますが、ステンレス加工が得意なメーカーや家具製作が上手なメーカー、自社開発の素材を使用するメーカー、便器や家電の大手で総合的によくまとまっているメーカーなど各メーカーそれぞれ特徴があります。

 1930年代からの歴史をもつ欧米のメーカーも日本に多く進出していて、主流はドイツメーカーです。つい最近まですべて輸入代理店の取り扱いでしたが、日本法人を設立しているメーカーも見受けられます。ドイツメーカーのシステムキッチンはデザインも価格も上級で、ちょうど日本車とドイツ車のような関係です。高額の案件やキッチンにご予算をかけられる場合は主要な選択肢となります。

 メーカーの選択方法としては、ショールームへ行って販売員の説明を伺って、実際に展示品を使ってみることをお勧めします。設計者としては、お施主様のご希望やご予算を伺って、建物との調和を見ながら、メーカーの絞り込みや決定のお手伝いをさせて頂きます。

 また、上記メーカーを採用しないで、設計事務所で詳細図を描いてキッチンを家具工事としてオーダーメード(特注製作)する方法もあります。冒頭写真の「西宮の家」のキッチンは、三角形の敷地端部にある台形平面の台所であったため、家具工事として特注製作しました。水栓金具やシンク、オーブン、レンジ、ワークトップの材質や吊戸棚の塗装色などお施主様のご要望に応じて一つ一つの部材や色を選んで、BIM(3D CAD)で組みあがった姿を様々な角度から検証しながら決定しました。

 オーダーメードのキッチンとすると、設計者の手間はかかりますが、総費用としてはメーカーの高価格帯キッチンよりは安く仕上がります。さらに「調理設備以外はただの箱で良い」という割り切りがあれば、低価格のキッチンとすることも可能です。お施主様のご要望や建物の条件に合わせて自由に設計できるのが家具工事でのオーダーメードキッチンのメリットですが、メーカーキッチンのようなシンクや収納の細やかな提案やメンテナンス保証が無いのがデメリットとなります。キッチンをオーダーメードとされるかはケースバイケースではないでしょうか?

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階段は木製?鉄製?オープン?

「西宮の家」の設計 ⑧

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第8回です。

 平屋以外の建物には必ず階段があります。限られた平面で階段の占める面積は少なくなく、また毎日利用するので大切なものですが、階段に予算をかけて重視されるお施主様とそうでないお施主様がいらっしゃいます。お施主様のご要望をよく伺って、階段を如何に適切な位置とあり方で計画するかは、設計者の能力次第です。

 木造住宅でよくある階段は、壁に囲まれて部屋からは見えない木製の箱階段(はこかいだん)と呼ばれるものですが、インテリアの一部として露出して見える木製または鉄製(鉄骨)のオープン階段も最近では多く見られます。コストは一般に木製よりも鉄製の方が高く、オープン階段の場合は各階の空間が仕切られること無くつながるので、ルームエアコンの空調効率が悪くなります。通常のルームエアコンではなく、常に家全体に冷暖房をかける全館空調という考え方もありますが、その場合は空調コストが高くなります。オープンな鉄骨階段の見え方を優先するのか、階段にはコストをかけずに木製の箱階段とするのか、プランと予算のバランスを考えて決定します。

 「西宮の家」は3階建てなので、1階~2階と2階~3階の二つの階段があります。両方とも木製階段あるいは鉄骨階段とするのが一般的ですが、コストと意匠を考慮して、1階から2階は木製階段、2階から3階は鉄骨階段としました。1階から3階まで同じ階段が続くのは退屈なので、2種類の階段としたという理由もあります。冒頭の写真は2階~3階の鉄骨階段です。鉄骨階段はリビング・ダイニングから見えますが、透明の大型ガラスで仕切っているので、空調の暖気・寒気が逃げることはありません。「オープン階段のような鉄骨の箱階段」です。階段はすべて詳細図を描いたオーダーメードとなっています。

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オーダーメードバスとする6つの理由

「西宮の家」の設計

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第7回です。

 浴室について明確なイメージをお持ちでない場合も、ハウスメーカーや工務店ではなく設計事務所にお声掛け頂くお施主様は、既製品のユニットバスではないオーダーメードバスを望まれます。理由としては以下があるようです。

 1.唯一無二のものが欲しい
 2.FRP(繊維強化プラスチック)が好きでは無い
 3.使いたい仕上材料(特定のタイル・石等)がある
 4.洗面所との間仕切りを大きなガラスにしたい
 5.置き型の浴槽を使いたい
 6.自由な浴室の形・大きさ・窓でつくりたい

 ユニットバスは完結した商品を置くだけなので、必要な空間を確保しておけば特別な設計図面は不要です。また、防水などのメーカー保証もありますので、意匠にこだわりが無ければ手軽で堅実な選択ですが、設計の自由度は少ないので、上記理由には対応できません。設計事務所は、浴室に限らず詳細図を描くオーダーメードを基本としていますので、出来る限りのご要望の実現を目指します。

 「西宮の家」の浴室は、お施主様の特別のご要望はありませんでしたが、三角形の敷地形状に沿った建物先端の台形平面に、なるべくコストを抑えて計画しました。具体的には、ユニットバスとオーダーメードバスの中間のつくり方で、浴槽から下は既製品のFRPハーフユニットバスを使用してコストを節約し、浴槽から上は二種類のタイルで壁を貼り分けて、台形平面に合わせた飾り棚があるオーダーメードの設計となっています(冒頭写真及びCG参照)。

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サニタリーの設計

「西宮の家」の設計 ⑥

住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第6回です。

トイレや洗面所などのサニタリー(Sanitary:衛生設備)を設計する際に、どのくらいのコストをかけるかはお施主様次第で、予算が厳しい場合は極力お金をかけないということが多いです。

冒頭写真は「西宮の家」の1階トイレと洗面所です。写真を見られて「高級」と言って頂くことが多いですが、双方とも三角敷地の不整形なひずみを受けて余った台形の小さな平面に簡単な造作や塗装を施しただけですので、大きなコストはかかっていません。

鏡や塗装は比較的安価な仕上げ方法で、間接照明とうまく組み合わせると高級感を演出することができます。なるべくコストをかけないで、でも少し手間をかけて、サニタリーであっても特別感や高級感が感じられればと思っております。

多目的な予備室

「西宮の家」の設計 ⑤

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第5回です。

 「西宮の家」の1階には多目的な予備室があります。お施主様の親御さんや友達が宿泊するために計画されました。限られた建物の大きさやご予算の中で、予備室を計画することはまれかもしれませんが、子ども部屋もお子様が独立すれば空き部屋となるので、主寝室以外の寝室はすべて「多目的な予備室」と考えられるのではないしょうか?

 「西宮の家」の予備室は三角形の敷地形状を反映した台形平面で、先端の細まった部分に木板を2枚造り付けて本棚と机にしています。独立したキャスター付きの引出しがあれば学習机にもなります。そばにミニキッチンもあるので簡単な自炊も出来ます。また、予備室の隣りにはトイレもあって、3階の主寝室脇のトイレと公私の使い分けが可能です。結果として、予備室の多目的な使用法としては以下が想定されます。

1)親戚や友人の宿泊室
2)親御さんの部屋(水廻りの分かれた二世帯住宅)
3)子ども部屋
4)趣味の部屋
5)ホームオフィス
6)病気にかかった時の隔離室
7)夫婦別室となった時の部屋
8)賃貸部屋

 将来の不確実性や転売の柔軟性を考えると、寝室の設備や配置を新築時に検討するにあたって、なるべく多目的な対応が出来る計画が望ましいと思います。

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1920s

 先日、三菱一号館美術館で開催中のガブリエル・シャネル展へ行きました。昨年パリでの大規模回顧展の巡回ということで、非常に見ごたえのある素晴らしい展覧会でした。

 軽くて動きやすい「シャネルスーツ」が社会進出する近代女性に受け入れられたという歴史的な意義については写真や記事で見聞きしていましたが、シャネルのスーツやドレスを間近に見るのは初めてだったので、物としての魅力にひきつけられました。とりわけ活動初期である1920年代のドレスのシンプルな美しさは、細やかなディテールと素材や形の抜群なプロポーションに裏付けられたものだと思います。

 第一次世界大戦(1914-1918)とスペイン風邪の大流行(1918-1919)から解放されて、車や産業機械の目まぐるしい発達を背景に、それまでの過剰な装飾からシンプルなモダンデザインへと変化したのは建築も同様です。シャネル(1883-1971)の1920年代のドレスを見ながら、同時代の建築家ル・コルビュジェ(1887-1965)やバウハウス(1919-1933)の建築・工芸品を思い出しました。

 冒頭の写真は、1920年代のシャネルのドレスに同時代の車や建築・工芸品を並べたものです。シャネルのドレスを着てサヴォア邸にいる女性が、マリアンネ・ブラントのポットでティータイムを楽しんでいる当時の様子が思い浮かびませんか ⁇

玄関は室内の第一印象

「西宮の家」の設計 ④

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第4回です。

 建物の外観は周囲の環境も考慮したデザインとなるのに対して、室内は完全にプライベートな空間です。とりわけ玄関は建物に入る最初の部屋で、「室内の第一印象」となるので、建てる人や会社をよく表現する空間となるように心がけて設計しています。

 「西宮の家」のお施主様ご夫婦は美術館学芸員でいらしたので、玄関も美術館展示室のような空間を提案しました。土間も含めて5畳ほどの大きさで、一般的な分譲住宅の玄関と変わらない広さですが、塗装壁と特注製作の収納家具やガラスの飾り棚で「展示室のような非日常性」を演出しました。奥の収納家具の上にあるのは旦那様ご所有のマルセル・デュシャン作品レプリカで、ガラス棚に飾ってあるのはご夫婦が担当された展覧会のカタログです。

 初めて家に来られた方は、皆さん玄関に入られると驚かれるそうです。ガラス棚のカタログをご覧になったり、収納家具の上の作品についてお話をされてから、濃緑色の壁の中央奥にある階段を上がって、2階のリビングへと導かれます。

 壁の塗装について聞かれることも多いですが、シックハウスの原因となる揮発性有機化合物(トルエン・キシレン・ホルムアルデヒドなど)を一切含まない米国製塗料なので、臭いはほとんどありません。日本で濃緑色を選ぶと抹茶色になってしまいがちですが、「和風でなく、濃いけど明るい緑」を豊富な色見本の中からお施主様と一緒に選択しました。緑を選んだ理由は、狭小敷地だと庭が無く緑が少ないので、「自然を想起させる色としての緑」という考えもありました。

→ 西宮の家

コンクリート造ですか?…いえ、木造です

「西宮の家」の設計 ③

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第3回です。

 前回のブログで、「西宮の家」では駅からの往来が多い南側道路から玄関ドアが見えないように「コンクリートの目隠し壁」を設置したことを書かせて頂きました。

 敷地いっぱいに建物を建てる時は、玄関と道路の間に十分な距離がとれないので、玄関のプライバシーをどのように確保するかが問題となります。

 「西宮の家」の場合は、最寄り駅が西側で、東側は公園と川で人の往来がほとんど無かったので、玄関の西側に衝立(ついたて)のような目隠し壁を設置しました。また、目隠し壁は重厚感のある「打ち放しコンクリート」として、玄関庇は屋外通路の庇と一体化した「大きな庇」とすることにより、風格のある玄関となるように演出しています。

 1階の木造の外壁は濃灰色の鋼板で覆われて、このコンクリートの壁だけが露出しているので、「コンクリート造ですか?」と聞かれることがあります。実は、計画当初は1階はすべてコンクリート造で検討していましたが、コスト調整の結果、このコンクリートの壁以外は木造となりました。

→ 西宮の家

周囲と呼応する開口

「西宮の家」の設計 ②

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第2回です。

 敷地いっぱいに建物を建てる時は、道路に面する開口(窓やドア)の計画が重要です。「西宮の家」の場合は、交差点角の狭小敷地だったので、主に以下の3方向の周辺環境に対して、開口のあり方を提案しました。

1.高台の集合住宅(北東側)
 北東側にある高台の集合住宅には、設計する住宅の2・3階の窓が面するので、室内の様子が覗かれないような配慮が必要でした。3階は部屋も小さく敷地の奥にあるので、集合住宅と対面する方向に窓が無ければ問題ありませんでしたが、2階は小さな中庭を設けて「二重壁」とすることで、室内が見えにくくなる工夫をしました。「二重壁」の間にある中庭の上は屋根がないので、中庭に面する窓から室内に十分明るい光が入りますが、BIMで太陽の動きをシミュレーションして、外側の壁の四角い穴の位置や壁の高さも検討しました。

2.緑豊かな公園(南東側)
 交差点をはさんで、敷地の南東側には緑豊かな公園があります。設計する住宅の2階から公園の木々の緑がよく見えるように「横長窓」を設置しました。また、交差点から住宅を見ると、「真っ白な外壁」が浮かび上がるような住宅の外観を提案しました。

3.最寄り駅(南西側)
 南西側の最寄り駅に近い位置に玄関を計画しましたが、駅からの往来が多い南側道路から玄関ドアが見えないように「コンクリートの目隠し壁」を提案しました。建物は木造ですが、コンクリート壁の重厚さが風格のある玄関を演出することも意図されました。

 光や風や風景をとり入れる開口は、建物が周囲と如何に関わるかを考えて設計するべきだと思います。すぐに建て替わる周りの建物もありますが、どういった周辺環境と呼応して、どのような設計とするかをお施主様と一緒に丁寧に検討させて頂ければと思っております。

→ 西宮の家

→ BIMとは何か?…BIMを使用する3つのお施主様メリット

2階建しか建てられない?…天空率で3階建が可能に

「西宮の家」の設計 ①

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第1回です。

 「天空率」は2003年の建築基準法改正で登場した考え方で、敷地に建てられる最大の建物の大きさを規定するものです。それまで敷地に建てられる建物の高さは「斜線制限」によって限定されていましたが、「天空率」を検討して問題が無ければ、「斜線制限」を超えた高さで建物を建てることも可能になりました。

 天空率は複雑な計算が必要なので、専用のソフトウエアでのみ検討可能で、冒頭の画像は当事務所設計「西宮の家」での検討結果です。左上3D図の紫色部分が「斜線制限」で建設可能な建物の最大ボリュームで、実際に建てた3階部分(緑色)は斜線制限ボリュームからはみだしていますが、天空率の検討により建設可能となっています。

→ 西宮の家

→ 「西宮の家」BIMモデル動画

 この家はお施主様が敷地を探す段階から参加させて頂いて、敷地を案内した不動産業者さんからは「2階建てしか建てられない」と説明されました。三角形の狭小敷地ということもあり、確かに斜線制限では2階建てしか建てられませんが、天空率による検討で3階建ても可能であることが判明して、土地の購入の大きな理由となったのです。

 「西宮の家」では、天空率の検討以外にも様々な提案をさせて頂きました。次回以降のブログで、個々の提案の内容について順次説明させて頂きたいと思います。