一級建築士事務所 エイチ・アーキテクツ

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昼顔 VS 夜顔

 

 「西宮の家」の設計 ⑮

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第15回です。

 建物の外観を検討する場合、基本的には昼間に建物がどのような見え方をするのかを検討します。住宅の場合は、公共建築のようにライトアップされたり、夜の利用が多い商業施設のように日が暮れてから見られることは少ないので、夜の建物姿の優先度は一般に低く、むしろ夜の窓を通して見える室内のプライバシーをどのように守るかの方が重視されることが多いです。特に狭小地では建物が敷地いっぱいに建っているため窓が道路に近く、1階の窓のカーテンは一日中閉めていることも多いのではないでしょうか?

 「西宮の家」の設計でも夜の建物の見え方についての打合せは特にありませんでしたが、2階の坪庭外側をまわる白い壁にあけられた大きな四角い穴は、夜の通りから見上げると、ぼんやり光が浮かんで行燈(あんどん)のように見えるかもねという話はしました。

 冒頭の写真は同じ位置から撮影した「西宮の家」の昼と夜の表情ですが、昼間に暗く後退して見える窓や開口は、昼になると明るく前へ出てくるので印象が異なります。実際に、道路に近い窓はカーテンやブラインドが下げられて、白い壁にあけられた大きな四角い穴は異質なものに見えるのかもしれません。

 格子の表構えが連なる古都の通りは、格子から漏れる柔らかい光が夜の通りを照らして美しく感じられることがあります。都心部では街灯に照らされて夜も明るい通りが多いですが、住宅でも夜の見え方について設計段階で検討した方が良いのかもしれません。

→ 西宮の家

採光シミュレーション

「西宮の家」の設計 ⑫

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第12回です。

 住宅の居室は一定以上の採光をすることが建築基準法で定められていますが、生活をして快適であるためには法令規定以上の採光が一般に望ましいです。また、法令ではその部屋にある窓の合計面積しか評価されませんが、実際には個々の窓の配置も重要で、隣の部屋から光が入ることもあります。良い採光であるかは平面図や立面図だけで判断するのは難しく、BIM(3次元CAD)で敷地の経度・緯度を入力した3次元モデルに想定される太陽光を入れて検証するのが有効で確実な方法だと思います。

 冒頭写真の右側に並んでいる画像は、「西宮の家」の2階LDKに三角形の中庭を通して太陽の光が入るか設計段階で検証した夏至の日の10時から12時にかけての様子です。奥のキッチンは少し暗いですが、ダイニングテーブル廻りには光が差し込んで、12時には隣の階段室上部のトップライトから光が入ることが確認できました。

 道路をはさんで向かい側の集合住宅からの視線をさえぎるために三角形の中庭の外側にも壁を設置していますが、この検証の結果、中庭の上部や壁中央の開口から太陽高度の高い夏でも中庭とダイニングには陽が差して明るいことがわかりました。また、階段上のトップライトはコストダウンで削除が検討されていましたが、ダイニングにも有効に光が入ることがわかったため残すことになりました。

 周囲の建物による反射や天候などの影響もありますので、採光の状況を正確に再現することは難しいですが、BIMを使用しておおよその採光をシミュレーションすることは可能です。

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ビルトイン本棚

「西宮の家」の設計 ⑪

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第11回です。

 最近は電子書籍の利用が増えて印刷した本は少なくなってきていますが、蔵書の多い方や電子書籍の利用が不向きな場合は、やはり本棚が必要かと思います。一般には家具として本棚を購入されることが多いですが、注文住宅では室内の壁と一体化した「ビルトイン(Built-in 造り付け)本棚」を計画することも珍しくありません。「ビルトイン本棚」のメリット・デメリットとしては以下が挙げられます。

 メリット
 1)インテリアと一体で計画できる
 2)空間を無駄なく使える
 3)地震で本棚が転倒しない

 デメリット
 1)コストがかかる
 2)位置の変更や撤去が難しい

 「西宮の家」では、蔵書が多く家でお仕事をされることもあるお施主様ご夫妻にリビング(冒頭写真上)と二つの書斎/仕事部屋(同写真下左右)の「ビルトイン本棚」を提案しました。リビングは窓下の壁をすべて「ビルトイン本棚」として、はす向かいの公園の木々を見ながら寝椅子に座って図書室のような雰囲気で本を読めるようになっています。書斎/仕事部屋は機能性を重視して、床から天井までの「ビルトイン本棚」を机と一体で製作しました。本棚の圧迫感が無いように白色で統一して、棚の高さは部分的に自由に設定できるようになっています。

→ 西宮の家

窓のメリット・デメリット

「西宮の家」の設計 ⑩

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第10回です。

 建築基準法では住宅の居室は採光・換気のために一定基準以上の窓が必要です。窓をどのくらいの大きさでどのように配置するかは重要な設計課題ですが、一般に窓のメリット・デメリットは以下となります。

 窓のメリット
 1)光を入れる
 2)空気を入れる
 3)外を見る/外へ出入りする
 4)インテリアや外観のアクセントとなる

 窓のデメリット
 1)熱の出入りが大きい
 2)雨風が侵入しやすい
 3)室内がのぞかれる
 4)ガラスが割れて壊れやすい

 木製の窓が多かった時代は、窓のデメリットの部分はあきらめて、メリットの部分をいかに生かすかが設計者の腕の見せ所でした。2000年頃までは、アルミサッシではデメリットの解消も十分ではなく見栄えも悪かったので、建築家が設計する住宅の窓は、窓を開けた時に屋外の戸袋に建具をすべて引き込んで、室内からは壁に大きな穴があいたように見える木製窓が典型例であったように思います。

 一般的な木製窓は経年でひずんで隙間風が入り、結露して動きも悪くなります。また、近年は地球温暖化や健康への関心から、室内の熱の70%以上が出入りする窓の性能が重視される傾向にあります。最近のアルミサッシは高性能でデザインも洗練されてきているので、特に高気密高断熱の仕様やZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)とする場合は上級アルミサッシが必須となっています。

 「西宮の家」は高気密高断熱でもZEHでもありませんでしたが、冒頭写真のリビングからはす向かいの公園の木々を望む横長窓は、既製品のアルミサッシを組み合わせて設計しました。木造住宅ですが、建物角に鉄骨柱を入れて、直角に折れ曲がる窓がなるべく連続して見えるようにしています。また、窓の上枠木口の厚みに収まるような小型ブラインドを設置して、ブラインドを下ろせば障子を通したような柔らかな光が入る気持ちの良い空間となっています。

→ 西宮の家

周囲と呼応する開口

「西宮の家」の設計 ②

 住宅を設計する際に、お施主様と一緒に様々な検討をします。「西宮の家」を題材に、実際にどのような提案をさせて頂いているかをご紹介するシリーズの第2回です。

 敷地いっぱいに建物を建てる時は、道路に面する開口(窓やドア)の計画が重要です。「西宮の家」の場合は、交差点角の狭小敷地だったので、主に以下の3方向の周辺環境に対して、開口のあり方を提案しました。

1.高台の集合住宅(北東側)
 北東側にある高台の集合住宅には、設計する住宅の2・3階の窓が面するので、室内の様子が覗かれないような配慮が必要でした。3階は部屋も小さく敷地の奥にあるので、集合住宅と対面する方向に窓が無ければ問題ありませんでしたが、2階は小さな中庭を設けて「二重壁」とすることで、室内が見えにくくなる工夫をしました。「二重壁」の間にある中庭の上は屋根がないので、中庭に面する窓から室内に十分明るい光が入りますが、BIMで太陽の動きをシミュレーションして、外側の壁の四角い穴の位置や壁の高さも検討しました。

2.緑豊かな公園(南東側)
 交差点をはさんで、敷地の南東側には緑豊かな公園があります。設計する住宅の2階から公園の木々の緑がよく見えるように「横長窓」を設置しました。また、交差点から住宅を見ると、「真っ白な外壁」が浮かび上がるような住宅の外観を提案しました。

3.最寄り駅(南西側)
 南西側の最寄り駅に近い位置に玄関を計画しましたが、駅からの往来が多い南側道路から玄関ドアが見えないように「コンクリートの目隠し壁」を提案しました。建物は木造ですが、コンクリート壁の重厚さが風格のある玄関を演出することも意図されました。

 光や風や風景をとり入れる開口は、建物が周囲と如何に関わるかを考えて設計するべきだと思います。すぐに建て替わる周りの建物もありますが、どういった周辺環境と呼応して、どのような設計とするかをお施主様と一緒に丁寧に検討させて頂ければと思っております。

→ 西宮の家

→ BIMとは何か?…BIMを使用する3つのお施主様メリット